花研コーヒーブレイク
花き業界における「リポジショニング」
2025.09.04
こんにちは。みんなの花研ひろばです。
最近、「ドラッグ・リポジショニング」という言葉をよく耳にします。これは、ある疾患に向けて開発された既存薬(あるいは開発途中で中止された薬)を、別の疾患の治療に応用するという考え方です。新薬は開発から承認まで莫大な時間とコストがかかりますが、既存薬なら安全性に関するデータがそろっているため、コストも抑えられ、承認の可能性も格段に高まるのだそうです。
さらに近年はAIの登場により、ドラッグ・リポジショニングの可能性が一気に広がっています。例えば、解熱鎮痛薬が大腸がんの予防に役立つのでは?とか、パーキンソン病の薬がアルツハイマー病にも効果を示すのでは?といった研究が注目されています。(専門的な正確さはさておき、素人目線での理解としてご容赦ください)
さて、この「リポジショニング」という考え方、実は花業界でも起こっているのではないでしょうか。
代表例はカスミソウです。昭和後期、花束といえば「メインの花+カスミソウ」という組み合わせが定番で、カスミソウは“名脇役”として欠かせない存在でした。しかし、時代の流れとともにそのスタイルは古風に見られ、使用頻度が低下。ところが平成後期になると人気が復活し、しかも今度は「カスミソウだけのブーケ」や「カスミソウだけのウェディング装花」といった使われ方で脚光を浴びました。つまり脇役から主役へ。これを「リバイバル」と表現していましたが、まさにカスミソウはまさにリポジショニングを果たしたといえるでしょう。
枝物も同じように位置づけが変化しました。かつては大型で場所を取るため、専ら法人需要として会場装飾やスタンド花など広い空間で活用されていました。しかし近年は、自宅需要としても人気が高まっています。さらに、生産側に注目しますと、生産者さんの中には従来のカーネーションやバラから枝物へと全面的に切り替える方も出てきました。需要においても供給においても、枝物の存在意義そのものが、まさにリポジショニングされたと言えるでしょう。
このように考えると、他にも「ポジションを変えて再評価された花」が思い浮かぶ方もいるのではないでしょうか。
そして、花の品目だけでなく、「花の使われ方」そのものもリポジショニングの途上にあります。暮らしの中での需要、産業の中での役割、社会的な価値、それらを再定義しながら、花き産業は発展していく必要があるのだと思います。
もちろん現実には、毎年の酷暑対策や流通課題など、足元の課題も山積みです。しかし、それらを解決しながら新しいポジションを見出すことができれば、花はさらに社会に必要とされる存在となるはずです。AIがドラッグ・リポジショニングの可能性を広げたように、花業界でもAIやデータ活用によって、新しい「花のリポジショニング」が実現できるかもしれません。
「リポジショニング」という言葉に触れるたびに、花業界の未来にはまだまだ可能性が広がっていると感じるのです。
それではみなさま、ごきげんよう。
9月15日発売です。