花研コーヒーブレイク
グライダー効果は幻か
2025.06.19
こんにちは。みんなの花研ひろばです。
プロテニスツアーは全仏オープンやウィンブルドンなど、大きな大会のシーズンを迎えていますが、上手な人のテニスをさんざん観た直後に、いざ自分でもテニスをしてみると、少しうまく打てるようになった気がします。気のせいかもしれませんが、最初のうちだけでもなんとなく良い感触があるのです。
ほかにも似たような経験があります。例えば、英語を話さなければならない日が近づくと、英語の番組(洋画や語学番組など)を集中的に観たり、頭に浮かんだことを英語に置き換えてみたりしておく。すると、何も準備しないよりは少しだけ英語が口から出やすくなるのです。ちょっとだけですが。このような経験はどなたでもあるかもしれません。
文章を書くときも、その前にお手本となるものや好きなスタイルの文章をじゃんじゃか読んでから始めると、なんとなく自分の書き出しもスムーズになるような気がします。
例えば、村上春樹さんの本をたくさん読んだあとに、いざ何か書いてみると、春樹さんぽいリズムになったりする。いや、しないな。・・・した感じがするだけで実際にはしないのですが、いつものリズム感と少し異なる程度には書ける。ちょっと変化を加えることはできるというわけ。
こうした「直前のアイドリング」のような作業エンジンを軽く温めておくようなことができると、滑り出しを良くすることは案外あるものです。その効果は長く継続するわけではないのですが、最初だけは何となくいい。何か思考やイメージがそちらに引っ張られるということなのでしょうか。これを言語学者の外山滋比古先生は“グライダー効果”と呼んでいます。
それはほんのひと時のご利益でしかなく、学習効果が残るわけではないのですが、私たちは知らず知らずのうちにこういう作用をうまく使っているのではないでしょうか。良いお手本に引っ張ってもらうと、飛び立って空を滑る。でも自分の実力で飛んでいるわけではないから、長続きはせず、やがて地上へ降りてこなくてはならない。力がなくなって落ちてくるのはグライダー効果の悲哀ではありますが、これを繰り返すことが学習効果が高まるのではないかと思うのです。
書道でも生け花でも、語学、スポーツ、音楽、お料理にしても、良いお手本を見て何度も繰り返すというのが本当の実力をつける手段のひとつではないかと(単なる自論です)。他力を真似していれば、いずれ自力に乗り移る。有効期間は短いとはいえ、グライダー効果もこの方法論の一種といえるのでしょう。
グライダー効果とは消えてしまうものとはいえ、幻ではなく、使い方次第でとても有効な学びの助走になるのではないでしょうか。コツは、お手本を見て自分でもやってみたい、あんなふうに上手にできるようになりたいと、わくわくする気分を大切にするということだと思います。良いお手本を見つけ、グライダー効果の力を借りながら、できることを少しずつ増やしていけると日々が楽しくなるように思いました。
それではみなさま、ごきげんよう。
・・・あ~、見逃した!・・・
NHKテレビの番組「ザ・バックヤード 知の迷宮の裏側探訪 ~本当の“知”は、裏にかくされている ようこそ奥深いウラの世界へ!~」をたまに拝見します。博物館や美術館、水族館、動物園などの日ごろ見ることができない裏側に潜入してレポートしてくれる番組。