OPERATIONAL PERFORMANCE花研コーヒーブレイク

菊文様

2015.10.07

市場流通でいえばキクは周年出荷がありますので、旬がいつであるかという概念が薄れがちですが、本来の季咲きシーズンはちょうどこれから。

最近は、輪菊、スプレーギクともに色も形も多様な品種が流通し、日持ちも良い花である分、私たちの目を楽しませてくれています。一方で、文様としてのキクも注目すると興味深いことがあります。

和装や家紋などでよく目にするのは、「流水とキク」の文様。

これは、古代中国、黄河の南に一面のキクに覆われた水源があり、そこから流れ出るキクのエキス(?・・・成分かな)を含んだ水を人々が飲み、健康長寿をかなえたという伝説が背景にあるのだとか。今でも東南アジアではよく飲まれている菊茶は血行促進の効果が期待できると聞きますが、中国では長寿の薬として古より菊が栽培されていたようです。重陽の節句には菊水の伝説にあやかり菊酒が飲まれるようになりました。

日本ではキクを愛でる文化は平安時代に伝わり、鎌倉時代には後鳥羽上皇がこよなく愛したことから、現在に至るまで天皇家の家紋は菊花紋章となっている話ことはご存知の通りです。

キクの文様も平安時代から使われるようになりました。鎌倉時代には花ばかりでなく、葉や茎などを華やかに描く「枝菊(えだぎく)」が流行、「源義経」が所有していたといわれる武具には、枝菊の文様が細工されているのだそう。長寿祈願やシャレオツで美意識の高い義経らしい高貴なセンスの一端を垣間見ることができますね。

桃山時代には秋草文様との組み合わせが流行り、菊唐草という、唐草に菊の花をあしらった文様が流行りました。武家の象徴として、足利、織田、豊臣氏らも家紋に使用、ほかにも大名家の婚礼調度に使われたばかりでなく、商家の商標にデザインされたり、庶民にも好まれ皆に馴染みのある文様だったようです。

<菊唐草文様の一例>

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現代は私たちが目にする菊の文様と言えば、和装や調度品、小物、あらゆる和雑貨のほかに、国花として私たちのパスポートの表紙に見ることができます。紙幣や硬貨でいえば、50円硬貨、あるいは伊藤博文氏が描かれていた旧千円札(今でも使えますが)には、表に植物画のような見事な菊が描かれています。

放射状に開くその花型は、古来より太陽にも重ねられ、日出ずる国日本のシンボリックな花として受け入れられ、愛用されたことはすんなりと得心がいくというものです。

今となっては、キクは不祝儀にも使われることはありますが、もともとは長寿祈願に使われた縁起の良い花。季節の花キクと同時に菊文様にも目を向けていると面白いかもしれません。

ちなみに、今年の10月21日は陰暦の重陽の節句にあたります。新暦の9月9日では季咲きのキクはまだ早いのですが、この頃であれば菊のお祝いも納得です。

 

 

 

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【菱菊】

菊を菱形にデフォルメした文様。

 

 

 

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【菊花束 】

紋章のようなキクと、描写風な秋草との調和が面白い。

 

 

 

 

参考文献:月刊『仏事』2015年10月号 コラム「文様」

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