OPERATIONAL PERFORMANCE花研コーヒーブレイク

拘置所に切り花

2016.09.05

区立の図書館に行って欲しい本を探しても貸出中のケースが多く、なかなか手に入らない。例えばリストアップした本10冊のうち、当日借りられるのは1-2冊。人気は集中するのか、「128人番目です」なんて案内されることもある。貸与期間2週間とすると、1年は52週だから単純計算では4-5年待たないといけないことになる。順番が回ってきたころには予約したことも忘れていそうなくらいだ。

その中でも今週、待たずに借りられた本がある。

『我が闘争』。

ヒトラーの方ではなく、ライブドアの元社長堀江貴文さんが著したものだ。

お茶や花き生産でも有名な福岡の八女(やめ)市で生まれ育った彼は、幼少のころから勉学に優れていて、閉鎖的な社会で違和感を持っていた。子供心に常に抱き続けたご両親や社会との軋轢。この本を読むと彼の心の葛藤が手に取るようにわかる。

成人してからも彼は目の前のことを一生懸命やってきただけで、金の亡者で社会倫理をないがしろにしたのはマスコミに仕立てられた虚像であったという言い分が伝わってくる。逮捕されてからも自分の信念は曲げない。無実を無実と主張したために、何者かに仕組まれたかのように、実刑判決が下る。

そのような闘いの中でも、思っていたより温かく朴訥(ぼくとつ)とした為人(ひととなり)であることを垣間見ることができる。

最近、堀江さんが東京マラソンやトライアスロンに挑戦する姿を拝見したときは、かなり唐突な感じがしたが、彼の本を読むと全てが繋がる。堀江さんはとても有能で多才、人生にも前向きなお方。IT界の申し子として社会を席巻したのは、その一面に過ぎない。最後には素直でポジティブな姿勢の堀江さんに励まされる。

その彼が、この本の中で拘置所で経験した底知れぬ寂寥感を綴っている。

(原文を引用)

どこを見ても暗闇を歩いているような、自分が何を考えていたのかすら判然としないような状態になってくる。

「これは頭がおかしくなるぞ」

(引用終了)

厳しい規制の中でも、弁護士経由でもらうご友人からの差し入れがこの上なく温かかったと回想している。缶詰、お菓子、果物などが拘置所にあるだけで心の支えになったという。せんべい布団ではなかなか寝付けず、辛い現実と向き合う時間も増えるものだが、差し入れのふかふか布団がどれほど優しさと安心感を与えてくれたことかと。

そして何より癒されたのが切り花の差し入れだったという。

どなたからの差し入れだったか記載はないが、拘置所の堀江さんに切り花を贈るという発想が素晴らしい。

デジタル社会の寵児だっただけに、アナログな切り花に感動された堀江さんにも意外さを感じた。無機質な拘置所にいる彼にとって花は空虚な心に温かいお湯を流し込むような存在だったのかもしれない。暗闇に思えた独房に、色と温度を与えた。日頃業務で花に携わる私でさえも、切り花のありがたみを感じた経験は堀江さんにはかなわないかも。

新たな一歩を踏み出し再びご活躍されている今でも、堀江さんは切り花を部屋に飾ることがあるだろうか。苦しい場であっても(あるからこそ)、切り花は人の心を励まし、あるいは心を落ち着かせ、支えとなるものであることを堀江さんの著書で知った。

 

以下、『我が闘争』より原文のまま紹介したい。

「そして自分でも驚くほど癒されたのが、切り花の差し入れだった。付き合っている彼女が買ってでも来ない限り、部屋に花など飾ったことのない僕だが、なぜ人がずっと花を愛でてきたのかが、ようやく理解できた。

短い命を燃やすように美しく咲く姿。その色合い、形の妙が殺風景な独房の一角に彩りと潤いを与えてくる。そして自分以外の生き物の気配を感じることが、これほど心を落ち着かせてくれるとは、思いもよらなかった。」

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