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トリケラトプスの中毒死は植物のせいか!?

2018.09.21

スティーブン・スピルバーグ監督による映画「ジュラシック・パーク」は、1993年に公開されたジュラシックシリーズの元祖です。初めて観たときは、目の前にホンモノの恐竜が現れたような体験ができ、かなりの衝撃と興奮を感じたことを覚えています。

 

その映画では、最初は何種類かの草食恐竜が登場して、穏やかにストーリー流れていくのですが、そのワンシーンで野原に倒れたトリケラトプスが出てきます。

Triceratops

 

もう瀕死の状態で、恐竜なのに虫の息なのです。

そこに女優さん(なんとか博士の役)が駆け寄って「植物を食べて中毒を起こしたんだわ!」と、すぐ近くに堆積しているトリケラトプスのフンの山に素手を突っ込み、何の植物を食べたのかを調べ始めます。そのフンの山は、まだ新鮮でジューシーだったらしく、2Dのスクリーンからもその温度感が伝わってくるほどの描写。博士の同行者の顔がゆがんでいました(笑)。

 

これまで何十回となくジュラシックパークを観ましたが、いままでこのワンシーンについて何も考えることなく見過ごしていました。ふ~ん、植物を食べて中毒を起こしたのか、くらいに。

 

しかし、このシーンにはとても深い意味があり、実は恐竜と植物とのただならぬ進化の関係が描かれていたことに、つい先週気づきました。

 

それは次の通り。

私たちが思う草食恐竜は、例えばブラキオサウルスのような首の長い種類。

Brachiosaurus

これらの恐竜が繁栄したジュラ紀には、樹高の高い裸子植物がもっさもっさと生えていました。この時代の草食恐竜は、裸子植物の高い樹木の葉を食べる必要があるので、ブラキオサウルスのようなこの首の長さはちょうどいいのです。

 

ところが、恐竜時代末期の白亜紀になると、植物はキレイな花を咲かせる被子植物に進化します。被子植物はあまり背が高くないので、それを食べる恐竜も首が長い必要がありません。トリケラトプスのような首が短く、足も短く、頭は下向きにくっついている方が都合がいいのです。

つまり、草食恐竜の中でもトリケラトプスは進化した種類なのです。

 

被子植物は裸子植物に比べ、花粉が到達してから受精するまでの時間が短いので、世代交代も早く、それだけ進化のスピードも速いわけです。

ゆっくりと大木に育つような時間はなく、美しい花を持つ草として進化し続けました。さらに、その美しい花によって誘惑された虫たちに、花粉を運ばせることによって受粉の効率が良くなり、進化のスピードが加速したのです。

 

ところが、植物の進化が早すぎて、最後は恐竜がその進化についていけなかったことが指摘されています。

被子植物はさらに進化を遂げ、食害を防ぐためにアルカロイドという毒の成分を含むようになりましたが、トリケラトプスはこの毒を消化できずに中毒死を引き起こしていたことが推察されているのだとか。

実際に白亜紀末期の恐竜の化石からも、中毒を思わせる深刻な生理障害が見られるのだそうです。

 

恐竜の絶滅を決定づけたのは隕石の落下というのが定説になっていますが、そのほかにも恐竜が周りの生物の進化、変化に対応できず、衰退していったということですね。

 

つまりジュラシックパークで虫の息だったトリケラトプスは、進化した現代の植物を食べて中毒を起こしてしまったわけです。

実際、白亜紀で起きていたことでもありますが、もし現代の植生の中で恐竜を再生させたら、そのようなことは確実に起こるのでしょうね。

なるほど、映画公開から25年経過した今・・・うーん、実に四半世紀!・・・その謎が解けたというものです。

 

 

以上、参照いたしましたのは、『面白くて眠れなくなる植物学』(PHP研究所)稲垣栄洋先生という静岡大学農学部教授の植物博士が書いた本です。面白かったけど、眠れなくはならなかったので、最良の結果だったと思います。

稲垣先生はほかにも多くの著書があり、とりわけ今夏に出版された『世界史を大きく動かした植物』は社内でも話題になっています。

読書の秋の1冊にオススメです。

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